Bar B

福島あたりの出張の帰りだったかも知れない

ひどく凍てつく晩だった。

どこかですでにできあがっていたのだと思う。

たまたま週末だったのでこのまま帰るには惜しい

と思ったのだろう。

 

その頃、私はBarというある意味敷居の高そうな

偏屈なところへは、一人きりで足を運んだことは

なかったが、その日は、違った。

と、いうより寒くて寒くてもうどうしようもなかった

のかも知れないな。

Bは、そこにあった。

私がまだ二十代の頃からそこはあって、いつも楽しいそうな

雰囲気がその店の中から染み出ていたのを覚えていた。

あれから??年も経過しているのに、その店は変わらず

元気そうだった。

 

店にはすでに、若者の二人組や、ひと時の逃避を満喫している

らしきオジサン達などが、店にたむろをしていた。

 

扉を開けると

ニット帽を深く被った店主が迎えてくれた。

前述とおり、その日はとても寒かったので、

何か温かいものありますか?と言ってしまった。

Barなのに。。。

店主は少し考えてから、こう言った。

じゃ、アイリッシュコーヒーはいかがですか?

と。

そんなしゃれたもの今まで飲んだことはない。

でも、あ、それでお願いしますと、さぞ知っている

かのように私は返答した。

 

籐のカゴにいっぱいのチップスやらスナックが

盛られていたものがカウンターの前におかれ、

しばらくしてそのアイリッシュコーヒーがきた。

 

し、染みる。。なんと冷えた体に染みたことか。。。

美味しいとかそんなのではない、染みたのだ。

なんと暖まるものだろうか?

 

最初は、持参した文庫本を薄明りの中で大人しく

読んでいただけだったのに、その小説の一遍が

私に後押しをしたのだろう、

大人しく一人の時間を楽しんでいる隣の紳士に思わず

話かけた。

最初はもどかしい雰囲気ではあったけれども

マスターが話に加わっておかげでちょっとだけ

盛り上がって、先ほどの若者達もいつの間にか

話に加わってきたりしていた。

主に地元の話だ。

懐かしのC店が火事になったとかなんとか、

あの頃はそうだったねと、そんな話だ。

 

話も一通り過ぎて、そろそろ頃合いになったので

マスターチェック!お願い。と、、、

マスターは、少しだけな~んだもっと居ろよ

みたいな顔をしながら、たった一杯じゃ儲けに

ならないよと小言をいいながら扉をあけてくれた。

 

なんだ。。楽しいじゃないか、もっと早くくれば

よかった、ここに。。。

 

そう、そう思ったがあれから何年経ったどろうか?

あれからその店に足を運ばずじまいでいたところ、

いつだったかあのマスターが亡くなったことを

SNSかなにかで知った。

 

今では思う。

あの一回きり、その店を訪れたきりで良かったなと。

最初のことだから今でもよく覚えている。

楽しい思いでのひとつである。

くだらない出来事などで上書きしないでいつまでも

楽しいままで私の記憶に残っていることを

あのマスターに伝えてあげたい。

ほっこりした苦味が舌に響いて凄く暖かった

あのアイリッシュコーヒーも忘れないよ。

ありがとう。