サイクル野郎

今日は、結婚式であった。天気が良かったので自転車で行くことにした。

土手沿いの川を走るのはとても気持ちのいいものだ。

自転車といってもいわゆるママチャリ。でもこれはスーツでもイケる。最近巷にウヨウヨいるスポーツタイプのあれだとこうゆう時に似合わないけどこれはなんとかいい。ああいったスポーツタイプのものも欲しいが小生なら小径タイプもので折りたたんで車に積める、あるいはバックに入れて電車に乗れるような小さめなものが欲しいな。 あ、バッグといえば子供の頃、兄が自転車を入れられる大きなバッグを持っていたなア。自分も子供の頃から自転車は好きだったけど兄は自分とは比べ物にならないサイクル野郎だった。

サイクル野郎は少年キング連載のマンガだ、当時は兄が買っていたので小生もそこだけは良く読んだものだ。マンガに影響されたのか、それかそういったマンガがあるくらいだから当時は流行だったのだろう、兄もマンガなみに凄かった。 と、いうのも上の兄は高校生の頃に日本一周、下の兄も北海道一周くらいはしていたと思う。そういった兄たちの自転車は本物だった。40年も前の当時だから結構すごいことのような気がする。まず、自転車は市販されているものを買っていなかった。フレーム、車輪、ペダル、ブレーキからなにまで自転車専門店から通販で取り寄せて自分なりの自転車を造りあげていた。おそらくバイトしてコツコツ買いためて仕上げていったのだと思う。旅に出るときは前輪の荷台には四角いバッグ、後輪の両サイドに布製のバッグを取り付けて、荷台には寝袋やら色んなものを山ほど積んでいた。(テントは持っていなかったと思う、当時のテントはあの三角でガッシリと重い丈夫な布製のやつしかなかったから自転車に積むとかなりがさばったろうし、高校生が買うにはちと単価の高い買い物だったハズ、基本、野宿かYHだった。)

ファッションなんてしゃれた感じではないかもしれないがお決まりは大抵お古のジーンズを膝のちょいと上で無造作に切り、その切れ目を1cmくらいほぐすのだ。そしてお決まりはサイクル野郎のシンボルのあのキャップだ。ちょっと小さ目で帽子のツバをヒョイと上に跳ね上げたやつ。(これは漫画のサイクル野郎もしていた-今は、ガイコツみたいなヘルメットしているけど、当時の自転車乗りはみ~んなあれをかぶっていたっけ。。。。今も売っているのかな?数年前にふと思い出してそのキャップを買おうとしたらみつからなくて町の自転車屋に聞いたらその存在に気が付いてくれなく話が通じなかった)

そういった共通の趣味をもっていた兄達のことをちょっとうらやましい気もしたけど自転車で1ヶ月も走りまわって見ず知らずの人とふれあい、汗をながし、どこともわからない野山を一人で走りきるなんてとても当時、小学生だった小生にはまったく想像もできない世界であった。(今でもムリ。。)

そんな兄達のサイクル野郎ぶりに影を落とす大事件が起きたのを今でもしっかりと覚えている。下の兄が多分中学年の頃だろうか?コツコツと自分でパーツを取り寄せようやく完成した自転車があった。(その頃兄達は、中学生でも新聞配達のバイトはしていたと思う、いや、むしろ子供のバイトといえば新聞配達だったか。。) その自転車は小学生の小生がみてもなかなかカッコよかった。水色のメタリックに仕上げられたピカピカのフレーム。一本一本自分で念入りに調整したスポークとホイール、ワイヤーで起用にひっぱられた見たこともない、いかにもその道の自転車にしか使われていないだろうブレーキとワイヤーのリンク方法、何度も何度も巻いたりほどいたりして自分の納得のいくまでにテーピングを施したジュラルミン製の鈍い光沢を放つハンドル、チェーンからギアまで、なにからなにまで一つ一つ丁寧に仕上げられた非常にカッコいい26インチの自転車だった。

そんな完成したばかりの自転車をある日、上の兄がちょいと借りてスズランというデパートまで買い物にいった。

事件はその帰りだった。

 なんと、少年が丹念に仕上げたその自転車は心無い人に盗まれてしまったのだ!!!!  あれはとてもショックだった、自分でコツコツ仕上げた自転車をうっかりものの兄の不注意で盗まれた下の兄、そんなピカピカの弟の自転車を鍵もせずにデパートの自転車置き場に置いて盗まれしまった上の兄、どちらもその無念さを誰にぶつけることもできない、いやぶつけたところでかえってくるわけでもないことを悟くらいの年齢に達していた二人、そんな二人を見ているだけでも辛いし、下の兄がコツコツと自分で仕上げている姿を近くでみていた小生もとても悲しかった。警察に知らせただろうが防犯シールなんてもの貼ってなかったし、そもそも自分でパーツから仕上げたものでまだ、どこにも出かけていなく完成したばかりだったので写真さえもないから警察だって探しようがなかろう。。。。なんどか探してみたもののその自転車は見つかることはなかった。。。

その後見かねた両親、また上の兄がお金をだしたのか下の兄は通販で完成した27インチの自転車を購入した。到着したその完成車を段ボールから取り出したときに下の兄が『完成車も悪くないな~』と、自分へのなぐさめのように言っていたその言葉はとても痛く感じられたのをよく覚えている。その完成車は確かによかったけど、あの盗まれた自転車に比べれば劣る点が弟身にもわかったし、なによりそんなもので埋め合わせが完全にできるほどあの盗まれた自転車に込めた愛情は浅くはなかったから。。

下の兄はその完成車でどこかにはいったようだが心持しらけてしまったのだろう、その後サイクル野郎ブームが過ぎたのもあったのか、その自転車はしばらく地下室にしまいこんであり、何年かすぎて小生の通学自転車となり、さらにその後、兄の友人に譲られた。

あの素晴らしい自転車はどこにいったのだろう?あのあと、弟の小生もなんとかその自転車をみつけたくてスズランデパートはもとより自転車置き場とあれば目を凝らしてそれを探した。そうやって一週間、一ヶ月、一年。。記憶の中で忘れされるときもあるけど40年経った今でもそのデパートの自転車置き場をみるとあの自転車がひょいと置いてあったりしていないだろうかとつい見てしまう。仮に今も存在していたしても、とても見るに堪えない無残な姿に変貌しているだろうに。    

ふと、こんな風にも思う。。。もしかして盗んだ人も自転車好きであの自転車に魅了されて魔がさしてしまい、盗んでしまった、けれどその自転車はどこかに乗ったらすぐばれるか?勿体ないかで今でもどこかで大切に保管されているのに違いないのだ。                      決してそこらのおっさんが足代わりにちょいと乗ったあげく川の中に放り込んだとか、なんてことは万にひとつも今でも思いたくないと。。。。。。